201708/18

葛花に含まれるテクトリゲニン類は、脂肪を減らす3つの効能がある

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葛の花

葛の花 踏みしだかれて、色あたらし この山道を行きし人あり」日本民族学の祖・柳田國男に師事した折口信夫の詠んだ歌です。

人里はなれた山奥の小道に、踏みしだかれた葛の花の鮮やかな色が滲んでいる…自分以外の人が間近に存在することに驚く様子が表現されています。

葛の花とは?

人の手がまるで入らない野生の森にたくましく自生する葛は、大豆と同じマメ科のつる性植物です。

非常に生育が早く繁殖力が強力で、10メートル以上にも伸びるつるは他の植物に巻きついて覆いつくしてしまうほどです。地面に近い部分は木のようになり、その根は深さ1.5メートル直径20センチほどの巨大なイモのように育ちます。

葛根の植物図

参考:ハル薬局 生薬解説

強靭な根茎とは対照的に小さく可憐な花穂を結びます。紫色の美しい花は、おみなえし、すすき、桔梗、なでしこ、藤袴、萩とともに秋の七草に数えられ、万葉集にも葛の花を詠んだ歌があります。

もともとは食用とされており、根のほかにつるの新芽や花もおひたしやてんぷらにして楽しめます。

葛の花の葛根をすりつぶして葛粉を精製されます

葛の根をすりつぶして水に混ぜ込み、でんぷんをもみ出して水にさらし、かき混ぜては沈殿させて水を張替える作業を何度も繰り返すことで葛粉を精製します。

奈良県吉野地方に古くから伝わる製法でつくられた葛粉は「吉野本葛」と呼ばれる最高級品で、吉野地方の地域ブランドとして継承されています。

葛粉は葛餅や葛きりなど高級和菓子の原料として知られていますが、最近では小麦アレルギーのあるお子さん向けの小麦粉代替品としても利用されています。

小麦粉やベーキングパウダーを使用しないグルテンフリーの葛粉スポンジは、ふわふわなのにしっとりしていておいしいと評判です。

吉野本葛100%使用で焼き上げた、グルテンフリーのケーキ

参考:天極堂 くずの子ロール

小麦アレルギーにも、おいしいケーキをと奈良特産の吉野本葛を使ったケーキ

参考:大阪ガス通信

葛糸は葛のつるから繊維をとりだして糸にしたもの

この糸を用いて織り上げた布は葛布(くずふ、かっぷ)といい、現在では静岡県の民芸特産品となっています。

江戸中期の百科事典「和漢三才図会」にも遠州掛川の特産とある美しい織物で、掛川にゆかりの深い徳川幕府に献上されたといわれます。地域のブランド力を高めるため、現在は「大井川葛布」の名称に統一されているそうです。

葛布は、柿渋や琉球藍などの天然染料で染める

自然が織りなす葛布

参考:N-Druve 大井川葛布

葛の根は葛根(かっこん)、葛の花は葛花(かっか)といい古来から生薬として利用されてきました

食用として、あるいは工業製品として知られる葛にはもうひとつの顔があります。

それは葛に特有の成分があらわす薬理効果による医薬品としての顔です。葛の根は葛根(かっこん)、葛の花は葛花(かっか)といい、それぞれ古来生薬として利用されてきました。

また、葛の近縁種であるプエラリア・ミリフィカはガウクルアとも呼ばれ、豊胸サプリとして人気があります。そして最近では、脂肪の合成を抑え、分解燃焼を促進する作用が見出されています。

葛の花(葛)は神農本草経の中で中薬に分類されてる

今からおよそ二千年前の古代中国で編纂されたといわれる最古の薬物書「神農本草経」。

伝説の薬神「神農」の名を冠したこの書物には、無毒で長期の服用が可能な養命薬(上薬)120種、体力を養い病気を予防する養生薬(中薬)120種、そして病気の治療に用いますが副作用が強いため短期使用に限定した治病薬(下薬)125種、あわせて365種の薬草が収載されています。

この神農本草経の中で葛は中薬に分類されており、代表的な処方としては根の部分を乾燥させた葛根を主剤とした「葛根湯」が風邪の初期に用いられます。

現代の医薬品を規定した日本薬局方には「感冒、項背の凝りを伴う疾患に用いられる」とありますが、生薬としての葛根は血流を促して体を温め熱を下げる、とされています。

日本薬局方に定められた医薬品規格としてはイソフラボン配糖体であるプエラリンを2%以上含むこととしています。

葛根は女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があります

プエラリンの糖が外れたアグリコンであるダイゼインには女性ホルモンのエストロゲンに似た作用が知られています。

プエラリンには血糖効果作用や骨形成、血圧降下などの薬理作用のほか、プエラリンのアグリコンであるダイゼインには鎮痙作用があり、まさに古代中国医学にいうところの「項背強也(背中のこわばり)」に薬効があるようです。

最近、プエラリア(ガウクルア)という熱帯植物のサプリメントが豊胸に効果があるという口コミで人気のようですが、実は「プエラリア」というのは葛の学名です。

豊胸サプリとして販売されているのはタイやミャンマーなど亜熱帯地域に自生するクズの近縁種です。

日本の葛は学名をプエラリア・ロバータ、あるいはプエラリア・モンタナという種ですが、サプリメントの「プエラリア(ガウクルア)」はプエラリア・ミリフィカという種で、イソフラボンの含有量は大豆の40倍にも達するといわれています。

葛にもミロエステロールやデオキシミロエステロールは含まれていません

プエラリアには大豆に含まれない特有のエストロゲン様成分としてミロエステロールやデオキシミロエステロールが含まれていますが、これらのエストロゲン活性は生体内のエストロゲン類(エストロン、エストラジオール、エストリオール)の中で最も性ホルモン作用の強いエストラジオールに匹敵するといわれています。

エストラジオールは更年期障害などに対するホルモン補充療法(HRT)に用いられる薬ですが、医師の処方箋がないと調剤できない処方薬です。

長期の使用では子宮がんや乳がんのリスクが高まるとされ、特に高齢者への投与では薬による効果よりもリスクの方が高くなることが知られています。

プエラリア(ガウクルア)の女性ホルモン様作用はこのエストラジオールに匹敵するもので、サプリメントなどの安易な使用はリスクが大きいといえるでしょう。

原産地のタイでもプエラリアに関しては所持や販売に対して制限や規制がかけられています。

ガウクルアはタイ語で「木に巻きあがるつる草」という意味ですが、タイには同じように木に巻きあがるマメ科のつる性植物が多数あり、これらの植物とガウクルアを見分けるのは現地の人でも困難といわれています。

これらの類似植物のなかには強い毒性を持つものがあり、サプリメントに混入して濃縮された場合、非常に危険な健康被害を引き起こす可能性があります。

危険なプエラリア・ミリフィカ系健康食品

平成16年の国立医薬品食品衛生研究所のDNA調査によると、プラリア・ミリフィカの遺伝子配列が求められたのは12検体中6検体でした。また、2010年にはプエラリア・ミリフィカの健康食品を摂取した56歳の男性が薬剤性の肝臓障害で死亡した例があります。

ポリフェノールの概略図 参考:日本食品分析センター

イソフラボンとはポリフェノールの1種でフラボノイドに分類されます。

葛の花に含まれるポリフェノールとはどのようなものなのでしょうか

ポリフェノールとは構成する分子にフェノール性ヒドロキシ基を複数持つ植物由来の化合物です。

ほとんどの植物により合成されるその数は5000種を超えると考えられています。その多くは植物の色素成分や外敵に食害を受けないための渋み成分だったりするようです。

ポリフェノール色素は古くから衣料や食品の染料として使用されてきましたが、近年、その健康効果に注目が集まりさまざまな研究が進められています。

ポリフェノールが重合したり、他の化合物と結合したものをタンニンと呼びますが、タンニンは昔から皮をなめすために使用されてきました。

タンニンの原料となる没食子酸は強力な還元力を持ち、写真の現像に使われる還元剤や食用油脂類の酸化防止剤として使用されます。

植物は光合成によって生命を維持し、生長するためのエネルギーを作り出していますが、そのために必要な太陽光線には有害な紫外線が含まれています。

動物のように自ら移動することのできない植物は有害な紫外線から身を守るためにポリフェノール色素をみずから合成していると考えられています。

紫外線は細胞や組織を通過するときに活性酸素を発生させ、組織に炎症を起こしたりDNAを傷つけたりします。この活性酸素を補足して還元し無害化するためにポリフェノールは使われています。

また、身を守ると同時に、色鮮やかな色素として繁殖のために昆虫を呼び寄せたり、柿の渋のように外敵に食べられないように働く成分でもあります。

ポリフェノールの健康効果は還元力、強力な抗酸化力にあります

ポリフェノール研究のきっかけとなったのはいわゆる「フレンチ・パラドックス」です。

「高脂肪・高カロリーな食生活を送るフランス人が他の欧州諸国よりも心臓病による死亡率が低い」という「パラドックス」は昔から知られていましたが、1992年にフランスの科学者が、パラドックスの理由は、日常的に飲まれている赤ワインに含まれるポリフェノールの効果によるもの、とする研究発表を行いました。

その直後から世界中で赤ワインブームが巻き起こり、ポリフェノールに対する注目度が高まりました。

現在、赤ワインの健康効果はよく知られるところとなりましたが、フレンチ・パラドックスとの関係には懐疑的な声も多く、赤ワインの輸出を増やすためのある種の宣伝だったのではないかと揶揄する向きもあるようです。

しかし、この研究発表によってポリフェノールは世界で最も有名な有機化合物になったのではないでしょうか。

赤ワインの後には、ブルーベリー、チョコレートやココア(カカオ豆)、緑茶、ウーロン茶、コーヒー、ゴマなどのポリフェノールが次々とブームを起こし、健康食品やトクホとして販売されています。

健康食品となったウコンの有効成分クルクミンもポリフェノールの1種です

クルクミンは肝機能を向上させるとされ、実験ではアルコールの代謝物である有害なアセトアルデヒドの血中濃度の上昇を抑え、γ-GTPなどの肝機能マーカー値の正常化がみられました。

クルクミン以外のポリフェノールにも肝臓保護作用はみられますが、特にフラボノイド系ポリフェノールであるカテキン類には肝臓での脂肪合成を抑えて脂肪肝を予防する効果があるとされています。

同じくフラボノイド系のポリフェノールであるイソフラボン類にも同様の効果がみられます。

葛の花を乾燥させたものを漢方では「葛花」とよばれます

古くから「酒毒を消す」と伝えられ、漢方処方の「葛花解醒湯(かっかげていとう)」の効能は、「飲酒の後に生じるめまい、嘔吐、胸苦しい、腹がつかえる、食欲がない、身体がだるい、尿量が少ない、舌苔が厚い」などの、いわゆる二日酔いに用いられます。

近年の研究で、この「葛花」に含まれるイソフラボンの1種であるテクトリゲニン類には、さらにすごい3つの機能が隠されていることがわかりました。

1.肝臓で脂肪の合成を抑える

私たちが食事からとる脂肪や炭水化物、たんぱく質などは身体の中でエネルギーとして使われますが、余ってしまった分は中性脂肪として細胞の中に蓄えられます。

特に肝臓は中性脂肪をため込みやすく、脂肪が全体の30%を超えると「脂肪肝」と診断されます。

脂肪肝の原因はお酒の飲み過ぎによって肝臓の機能が低下することで起こる「アルコール性脂肪肝」と、糖質の食べ過ぎや肥満によってインスリンの効きが悪くなり起こる「非アルコール性脂肪肝」の2種類があります。

葛の花から抽出されたテクトリゲニンは、中性脂肪のもととなる脂肪酸の合成を抑えて、脂肪肝を予防する働きがあるとされます。

マウスを使った実験によると、テクトリゲニンを含むイソフラボンを12週間投与したマウスは、血液中の中性脂肪とインスリン濃度の低下がみられといいます。

遺伝子を詳しく調べたところ、イソフラボンはインスリンの効きをよくして血液中のインスリン濃度を下げることで脂肪酸合成遺伝子の発現を抑制していると考えられます。

2.脂肪の分解を促進する

ヒトのからだに肥満が起こるのは、摂取カロリーが消費カロリーを上回り、余剰となったエネルギーが脂肪酸として細胞に取り込まれ、蓄積されるからです。

脂肪酸の取り込みと蓄積がもっとも多く行われるのは「白色脂肪細胞」で、脂肪をため込むとその直径は普段の倍近くまで肥大します。

また、もうこれ以上取り込めない、というところまで脂肪をため込むと脂肪細胞を増やしてさらに脂肪をため込もうとします。

肥満を解消するには白色脂肪細胞にため込まれた脂肪を燃焼しなければなりませんが、細胞の中にため込まれている中性脂肪のままでは燃焼できません。

中性脂肪を脂肪酸とグリセリンとに分解しないと、燃やすことができないのです。

脂肪を脂肪酸に分解して細胞から放出し、遊離脂肪酸にしないとなりませんが、この引き金となるのがノルアドレナリンというホルモンです。

ノルアドレナリンは交感神経が優位になると分泌され、脂肪細胞にある受容体に結合します。

すると脂肪細胞の中の中性脂肪が脂肪酸とグリセリンに分解され、脂肪酸が放出されて燃焼する準備が整います。

葛の花に含まれるテクトリゲニンには脂肪細胞の受容体の発現を促進する作用があり、結合するノルアドレナリンの量を増やして脂肪酸の放出を促すのです。

3.脂肪の燃焼と消費を促進する

白色脂肪細胞から放出された脂肪酸は、もう一つの脂肪酸である褐色脂肪細胞に取り込まれ燃焼されます。

取り込んだ遊離脂肪酸を燃料として燃やすのは細胞内のエネルギー工場・ミトコンドリアの働きによるものですが、燃焼することで得られたエネルギーは体内でさまざまな生体活動に利用されます。

すると余ったエネルギーは再び脂肪として蓄えられてしまいます。

これを防ぐためには、燃焼エネルギーを運動によって消費するか、熱として放出するしかありません。

テクトリゲニンは褐色脂肪細胞においてもノルアドレナリンの受容体を発現させて脂肪酸の燃焼を促しますが、同時にミトコンドリアに作用するたんぱく質の発現も促します。

このたんぱく質が働くことで脂肪酸の燃焼によってつくられたエネルギーは熱として放出されます。

この熱産生作用を持つ褐色脂肪細胞を、冬眠をする動物では「冬眠腺」と呼びますが、冬眠時における体温維持のために熱エネルギーを作り出すところからこう呼ばれています。

まとめ

人間の褐色脂肪細胞は赤ちゃんのころにのみ見られ、成人するとなくなるか、ほとんど機能しないようになるといわれていましたが、近年の研究で成人にも褐色脂肪細胞はあり、低温刺激などでその働きは活性化することが分かってきました。

近年、葛の花に含まれるイソフラボン、特にテクトリゲニンにはこのような特殊な作用を遺伝子レベルで働かせることがわかり、特定保健用食品や機能性表示食品に利用されるようになりました。

今、これまでは全く違う、遺伝子レベルのダイエットに熱い視線が集まっています。

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